"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
しかも、ちゃっかり横に並んで歩けるし……とは、さすがに言わないけど。

荷物が減ったからか、琴音の足取りはさっきより軽い。この暑さから逃げるには早く帰りたいのに、ちょっと残念。


「いつもこんなに大量に買ってるんですか?」

「………今日は備蓄、かな」


声のトーンがほんの少しだけ低くなったような気がしてレジ袋から視線を上げる。視線に気づいた琴音はへにゃ、と笑って「暑いね〜」と言った。

帽子のバイザーを持ち上げ、琴音の頭に軽く被せる。
深く被せるのは気が引けた。

「汗臭かったらすみません」

「それは大丈夫。それより町田くんの方が太陽に近いのにいいの?」

頭一つ分くらい違う俺たちの身長を気にしているのか、琴音は心配そうに見やったが、多分そんなに変わらないと思う。

それに。


「相沢さん、しんどそうなんで被ってて下さい。気持ち程度は変わると思うんで」


顔は日に照らされて真っ赤になっているし、体のどこにも力が入っていないような、そんな気怠さが見え隠れしている。

熱中症だったらまずい。


「うん。大分違う。ありがとう。……帽子って大事だね」


グッとバイザーを下げ、深く被る琴音に「汗大丈夫だっけ」と焦りつつ、表情が和らいだので良しとしよう。


「坂が長すぎなんですよ。舐めてました」

昨日も長いとは思っていたが、荷物があるかないかでこんなにも違うとは思うまい。


「ふふっ、私はここに住んで二年経つけど、まだ慣れないや。年々暑くなってるしねー」



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