"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「私を強い人だと思ってくれるなら、町田くんもいつかそうなるよ。大切な人のためならなんだってできるってそう思える日がきっと」
「そうですかねぇ」
傷を負ってでも誰かを守るという状況にも出会しそうにはないが、もしそうなったら俺はどうするのだろうか。命をかけてでも守りたいと思うのだろうか。
「なれるなれる!あ、でも、大事な人を守った後に脅すような汚い大人にはならないでね!」
「なんですか、それ。脅したんですか?」
冗談のつもりで言ってみた。
「そんなわけないよ!」と言われるに決まっていると思った。
けれど、彼女はどちらとも取れないような笑みとともに口元に人差し指を近づけた。
「内緒」
不覚にも美しい微笑にドキリとする。
それで全てを誤魔化されてしまう自分が情けない。
ただ、何となく、大事な人を脅すようなことをこの人でもするんだなぁと。
こんなに抜けている人にそんな事ができるんだなぁと心の内で思った。
話をしていたらあっという間にバイトの時間になってしまった。相沢家側も用があるらしく、今日は珍しく夕飯に誘われなかった。
……誘われたとしてもバイトだから行けないけど。
「バイトがんばってね」
太陽の光で逆光になっていたからなのか、ニコリと笑う琴音がどこか元気がなさそうに見えた。