"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

昨年末、平松が言っていたのだ。

「いかにもキャリアウーマンって感じの女の人」が相沢家と関わりがあると。

それに去年の夏、琴音が履きそうにないハイヒールが玄関にあった。

あの黒いハイヒールをよく覚えているのは普段の琴音はスニーカーしか履かないからだ。

スニーカー以外では文化祭の時に履いていたショートブーツしか見たことがない。

それもヒールは高くないブーツだったので、地面から何センチ離れているか分からないようなハイヒールを履くイメージがつかなかったのだ。


もしや、全てあの女性のことだったのでは。

それに今日は用事があると言っていたので尚更全てが当てはまる。

だからと言って俺にはなんの関係もないけれど。

さっきの女性がもし相沢家に行くのであれば、彼女は大丈夫なのだろうか。酒井の時のように発作めいたあの症状が出たりはしないのだろうか。

後ろに立たなければ大丈夫だと言っていたし、スーツを着ているところから大洋に用があるのだと思うからそこまでの接触はないのかもしれない。

それに大洋がいるならば大丈夫だろう。

それなのに、今になって慌てて挨拶を済ませた時にどんな顔をしていたのか気になった。


当たり前のことだが"困った時"の連絡はなく、次に会った時もいつもと変わらなかった。

杞憂だったんだと思う。
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