"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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梅雨に入り、酒井絵里は憂鬱だった。

毎日毎日雨が降るおかげで傘という荷物が増えることも、風のせいで防げなかった雨に濡れることも、水溜りが跳ねてパンプスが茶色く汚れることも、パンストが足に張り付くことも、スーツが窮屈で動きにくいことも、実習が始まってサークルに顔を出すことができないでいることも、悠介に会えないでいることも全部憂鬱だった。

実習期間は短いが多数の実習先に一定期間行かなければならない。今は病院実習の半ばに入っているところだった。

実習先は優しい人が多いが時に学生に対して理不尽なことを言う人もいて、肉体的にももちろん疲労しているが精神的に来るものがある。

これが社会だと言われて仕舞えば仕方がないが、疲れるものは疲れるのだ。

病院実習は土日は休みなので金曜日の実習が終わった瞬間は実習生にとって短い天国の始まりだった。

ドラマでよく言う「華金」の気持ちが近頃少しは分かるようになってきた。

同じ実習先の子たちと居酒屋で飲みつつ、今日の失敗や学んだことを話したり、ちょっぴり愚痴ったりする華金は最高に楽しくスッキリして、来週も頑張ろうと思えて憂鬱を緩和することができた。

そして、今週の金曜日も憂鬱を晴らすべく居酒屋に向かった。


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