"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
毎回居酒屋の場所は違う。
金曜日までにネットやSNSを駆使して食べたいものがある店や内装が可愛い店などその時次第で、降りる駅もバラバラだ。
今日は実習生のうちの一人がお勧めする店に来ているのだが、絵里は初めて降りる駅だった。
降りてすぐの居酒屋通りは賑わっていて活気に満ちているが、通りのすぐ側に見るからに如何わしい感じの建物がチラホラと見受けられる。
それらの建物の入口には滞在時間に応じた目安料金が書かれたプレートや看板が立てかけてある。
それがどういう建物か、流石の絵里も分かったので思わず目を逸らした。
連れてきてくれた実習生は目当ての店に入るなり「入りづらい場所にある店でごめんね!」と詫びた。
「でも味は絶品だから!」
彼女の言葉通り、一品一品が居酒屋のクオリティとは思えない綺麗な盛り付けで、味も上品で美味しかった。
特に絵里が気に入ったのは手羽先の唐揚げだった。甘辛く、外はカリッとしているのに肉は柔らかく食べやすい。
一度食べると止まらなくなり、何度も注文する羽目になった。
その日、美味しいものに巡り合えた絵里はお酒は最初の一杯だけ。おまけに割とお酒に強い体質なので一杯くらいで、全く何の影響もなかった。