"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「ここが地元じゃないんですか?」

「ぜーんぜん!東京から追っかけてきたらここだったのよね。は〜!ようやく着いた!」


坂の終わりが見えたら、あっという間に着いてしまった。
長いと嘆いていた坂がもっと長ければいいのに、なーんて、な。


「玄関まで運びましょうか?」

「ありがとう〜!鍵はどこに入れたっけなぁ。ん〜」


服のポケットのあちこちを弄って、見つけた鍵を取り出す琴音。


「相沢さん、財布は?」

「カードで払ってるの!」


指差した胸ポケットは確かにカードがちょうど入りそうな大きさだ。しかし、カード入れが入っているような厚さには見えない。


まさか、そのまま………?昨日から思ってはいたが、危機管理能力がゆるふわすぎやしないか?


雑草が気になるからってお節介したり、クレジットカードや鍵をポケットに入れて管理したり。

何よりも、自分から言っておいてなんだが、知り合って二日の男を玄関に入れてしまうという危なさ。

もちろん、重いから玄関までっていう気持ちが大方を占めていたけど、もう少し話せないかな、なんて下心もあったわけで。

結構わかりやすいことをしたと思っていたが、琴音には伝わらなかったらしい。

なんというか、こんなに警戒心皆無な人が一人で生活できているということが信じられない。


昨日『身の安全のためにも互いに気をつけようね』と、言っていたこの人を絶対に放置してはならない気がした。

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