"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
彼女には底知れない闇がある。
潮の香りが満ちたホームで俺はデジャブを感じていた。
ちょうど去年の今頃と同じように黄色い歓声を浴びる大洋のサーフィン姿を遠目にみていた。ここに越してきて一年も経つのかと思うと時間の流れの速さに驚く。
夏〜秋にかけての趣味がサーフィンだという大洋は冬は寒さで、春は忙しさで休んでいるらしい。
夏の日差しもキツくなってきた今日この頃。もうすぐで夏休みがやってくる俺はその前に大学の課題に追われていた。
この暑苦しい中、海にいる人々を少しだけ妬ましく思いながら大学へ向かった。
テスト前の最後のサークル日。実習で一ヶ月以上顔を出していなかった酒井も参加している。
「ゆ〜君、久々の彼女に会えた感想は〜?」
……もちろん、千葉崎も。
ただでさえ暑いのに肩を組んでくる千葉崎を引き剥がし、「ちょこちょこ会ってたから久々でもねーよ」と返す。
「俺だけが会えてなかったのか〜。寂し〜。酒井も俺に会えなくて寂しかった?」
わざとらしく鼻をグスッと鳴らし、目元に手を当てて泣き真似をしながら酒井の肩にぽん、と触れる。
酒井は肩に乗せられた手を気にせず、代わりに上から下まで千葉崎をジロジロと観察するように眺めだした。
俺も千葉崎も酒井なら「触んな!」とその手を叩き落とすくらいはしそうだと思っていたのに思っていた反応と違った。
「どうした?なんか調子悪い?変なもんでも食ったの?それとも俺に見惚れちゃった〜?」
「なっ!!そんなわけないでしょ!!」
今度こそバシーンッと音を立てて手を振り払われ、酒井は先にコートに入っていった。