"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる

静かすぎるのも困りものだ。

結局、琴音からの連絡はないまま一週間が経った。

その間、サークルやバイトへ行ったりして、朝晩しか自宅にいなかったからか道端で会うこともなかった。


最後に会った時の顔色の悪さが気がかりだが、夜に点いていた明かりは朝には消えているし、時折大きな物音も聞こえてくるということは無事ではあるのだろう。


……しかし、心配とはいえ、この確認の仕方は、まるで。


「ストーカーみたいだな」

普通にインターフォンを鳴らせばいいだけの話なのに。
いや、押したところで安否確認だけするというのも気持ち悪いような……。


不審すぎる自分の行動を省みてドン引きしていると、肩に急な痛みが襲った。肩パンを喰らったのだ。それも強烈なやつ。


「いってぇ」

若干涙目で振り返れば、サークルの同期である酒井が痛がる俺を見て面白がっていた。


「なーに、ブツブツいってんの?」

彼女は全く謝る気はないらしい。
そっけなく「ほっとけよ」と返す。


「あ、そ」

つまらないと感じたのか、腕をグッと上に伸ばし、ストレッチを始めだす。

Tシャツから伸びたしなやかな腕は一般的な女子よりもしっかりと筋肉が付いてはいるが、男よりも細い。

一体、この体のどこからあんな力が生まれてくるのか、疑問だ。


ふと、視線が合えば酒井はゆっくりと腕を胸の前でクロスし、体をしならせて言った。


「….……何見てんのよ、変態!」

「なっ!?」


それが割と大きい声だったので、周りが一斉にこっちを向く気配がする。確かにジロジロ見てはいたが、違うぞ。断じて何もしちゃいない。


「ゆ〜君、一体何をしたのかなぁ?」


後ろからまた新たにうざい奴の声がし、げんなりしながら振り返る。ウェーブがかった金髪を一つに束ねた男がバスケットボールを突きながらやって来た。

千葉崎だ。


「町田がやらしい目であたしをみてくんの!」

「見てないっての!それにはっきり言うけど、お前をやらしい目で見る所がどこにもねーよ!」

酒井の化粧は最低限で茶髪に染めた髪は短く、Tシャツにハーフパンツ、スニーカー。動きやすさを重視した服装も相まってまるで少年にしか見えない。

色気をどこにやったのかと聞きたいくらいだ。



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