"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「ねぇ、部屋って玄関のとこだけ?」
「いや、そこの細いドアの奥に一番広い部屋がある。なんも置いてないけどな」
「どれどれ」
嬉々として居間の端にある扉を開ける酒井の前に広がる縁側。そして、大和室。
「おお〜!秘密の部屋みたいだなぁ」
少年のように目を輝かせ、寝転ぶ千葉崎。
お前はどこでも寝転ぶよな。
それから、押し入れを片っ端から開けて覗き出した千葉崎とは違い、酒井は俺と入り口で佇み、静かに言葉を紡いだ。
「やっぱり、一人暮らしには広すぎない?」
「まぁな。でも、お前ら二人が住むとギリギリだぞ」
「そ、そうじゃなくてさ!!」
しどろもどろになっている酒井に俺は首を傾げると、目を逸らされた。この家に住み着こうとしているのかと思ったが違ったみたいだ。
「隣の美人って、やっぱり誰かと住んでるんじゃない?彼氏とかだったらどうするよ?」
あり得なくもないと思った。
あれだけ美人で、優しい人がモテないはずはない。おまけに無用心でほっとけないし。
広すぎる平屋の玄関に置かれたサーフボードと琴音の「追っかけてきた」という言葉が頭をちらつく。
「どうもしねーよ」
そう言いつつ、鳩尾あたりがもやっとして、気持ち悪かった。