"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
玄関の方へ小走りで向かう琴音の背を見つめ、ただ立ち尽くした。
何も考えていない、何の意味もない言葉だとわかっているのに、嬉しい。
あの日以来、見かけないことが心配だった。
それだけじゃなくて、会いたいと思っていた。
連絡が来ないのは気味が悪いと思われたんじゃないかって、ビクビクしてた。だから庭掃除目当てだとはいえ、その言葉は嬉しかった。
「お邪魔します!よかったらこれ使って!」
大きいスコップと小さいスコップ、熊手など、様々な道具を持って来た。
琴音は早速作業に取り掛かり、俺が苦労していた雑草もスコップ片手にあっさりと抜いてしまう。
俺も負けてられない。
「夏休みは実家に帰ったの?」
「お盆の間だけ帰りました。相沢さんは東京でしたっけ?」
「そう!私もお盆の時に行って来たよ。そういえば町田くんってどこの出身なの?」
「生まれも育ちも隣の市なんですよ。ただ、親の方針で一人暮らしをしているだけなんです」
ここから一時間という位置にある実家は大学からだと大体二時間はかかる。
通えないわけではなかったが、「社会の厳しさを知れ」という父親の方針と「社会人になってから一人暮らしをするのは大変だから今から慣れておきなさい」という母親の助言により今に至る。