"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
大学と実家のほとんど中間地点であるこの平屋は、果たして一人暮らしをする意味があるのか。

大学生になってから学費以外の支出はアルバイト代から出せているが、抑えられる出費は抑えたい。それで、将来の資金を貯めるんだ。

だが、時は金なりともいう。

大学生、残りわずかな十代という時間。
途方もない未来。

どちらの方が俺に必要だろうか。


「早く決めなきゃな」

「何を?」

顔をあげれば色素の薄い茶色の瞳がキョトンと見つめていた。それも至近距離で。

………まさか声に出ていたとは。

声に出してしまったことも驚きだが、近すぎる距離に息をするのも忘れてしまう。

俺は二、三歩後退してからここに越してきた経緯(床穴に落ちたことは伏せた。)も含め、管理人との期限について話した。


「ん〜そっか。もっと大学に近い場所はあるけど、学生としてはお金は大事だもんね」

ザクザクと土から根っこを掘り上げて、抜いた根っこが積み上げられていく。琴音の雑草の山は先に雑草を抜いていた俺なんかよりもずっと高い。

「でも、大人になったら時間の方が欲しくなるよ。永遠にあると思ってた時間が足りないことに気づくの」

「相沢さんは時間が欲しいんですか?」


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