"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「欲しいよ。……とっても欲しい」
風が髪を巻き上げ、帽子が揺れる。
影がゆらゆら揺れる琴音の表情は読めない。
………時間か。
確かに、今の俺にとって時間は永遠で、逆にお金は有限だ。それが大人になれば逆になるんだろうな、ということはなんとなく分かるが、いまいち現実味はない。
成人を迎える年になったのに、結局は何も変わらない。何も分からないただのガキだ。
ちらりと、琴音を見やる。
どう見ても俺とそう年は変わらないように見えるのに、さっきはまるで子供を諭すような大人びた発言だった。
俺はつい、興味心に負けてしまった。
「相沢さんは大人だから時間が欲しいんですか?」
「うーん、そうだなぁ。少なくとも町田くんよりは大人かなぁ。私、今年で三十歳だし。町田くんは二十歳くらいでしょ?」
「そうです、けど」
頭の中をはてなマークが増殖し、埋め尽くす。俺は今、何を聞いたのか。果たして耳に入った情報は正しいのか。
「三十?」
「Yes!」