"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


訳は違うとしても、母親世代だけでなく、大学生ですら化粧なしには生きていけないという女性が多い中、琴音はスッピンで、しかも今年で三十才だという。

知り合いに三十代女性が少ないので比較しづらいのだが、俺の知っている限りこんなにもアラサーだとは思えない女性は初めてだ。

どう考えても大学生。
頑張っても大学を卒業して一年、二年。

とにかく、二十代前半にしか見えない。


ぼけっとしていた俺の前でヒラヒラと手を振る琴音にハッとすれば、ニヤリとした笑みを向けられた。

「そんなに驚いちゃう?」

「そりゃあ、まぁ。歳近いかなって思ってたんで」

「十歳差だよ?町田くんが十歳。つまり、小学生の時に私は成人式を迎えてるんだよ?町田くんからしたらおばさんだよ。歳が近く見える訳ないない!ほら、最近じゃシミも出てきたんだから」


目を閉じて、シミがあるという目の下あたりを指差す琴音。その場所には確かに薄らと茶色い色素が見えた。


………この人のパーソナルスペースはどうなってるんだ。


無防備に、美しさを至近距離で見せつける。

分かってる。きっと何も考えてないんだ。


潮風に紛れてふわりと香る花の香り。

それは柔軟剤とか香水とか、そんな人口的なものじゃなくてもっと自然でもっと甘ったるいやつだ。



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