"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
年齢の割に若く見えるのは見た目だけじゃなくて、抜けてて天然なせいもあるんだろう。
それに、消し去りたいほど嫌な弱点を見せてまで誤解を解こうとしてしまうほど素直で、人の庭を気にしてしまうほどお人好で、すぐに心を許してしまうような無防備さ。
おまけに、めちゃくちゃ美人で、甘い、花の香りがして。
……同じくらいの歳であって欲しいという願望もあったんだ。
これはもう、あれだろ?
あれじゃないか。
あーあ。
「あーあ」
俺の心の声が漏れた訳じゃない。
琴音の声が俺の心の声とシンクロしたのだ。
ホッと胸を撫で下ろした時だ。
「もう三十歳になるのかぁ」
琴音は空を仰ぎ、ポツリと呟いた。
太陽の光が眩しいのと、琴音の帽子の束が広く、丁度顔が隠れてよく見えない。
俺はただ黙った。
「あーあ」と言ったはずの琴音のそのあとの呟きは落胆というよりも悲しみに満ちているような気がしたからだ。
せめて表情がわかれば何か返すことができたかもしれないが、分からないから返す言葉が見つからなかった。
それから、二人で黙々と草を抜いた。