"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


もうすぐ夏が終わる。

大学生にとっては夏休みが終わるということで、俺にとっては、この平屋に住み続けるかどうかを決めなければならないということだ。


「あーあ」


あの後、本当にあっという間に雑草を抜き終わってしまった。作業が終わって、琴音が持ってきてくれた麦茶を飲んで解散。

夕飯に誘われたが、さすがに断った。

けど、断らなければ良かった、なんて。
……まぁ今更、後悔してしても遅いんだけど。
そんなちょっとした後悔をしつつ、縁側で、来た当初のようにすっきりとした庭を眺めていた。


今日、改めて分かったことは一人暮らしにしてはこの平家は広すぎる。管理が大変だ。

ずっと家にいるならともかく、寝食をするだけで良いなら部屋は一部屋で十分だし、庭は使わない。

家賃は破格だが、大学までの距離、駅からこの平家までの長い坂を考えれば買い物一つするのも一苦労だ。


それこそ、課題に追われている時には"時間が欲しい"。

そういう時にはかなり焦らせる要因の一つになったりもするんじゃないか。

そう考えると、ここに住むことはデメリットの方が大きい。


それでも、今日、草むしりをしている時間が無駄だとは思えなかった。


悩む要素なんて大してなかったんだと思う。
最初から、心は決まっていたんだろう。

だけど、心の中でそんなはずは無いと否定して、ありえないと打ち消していた。

千葉崎達に話した金銭面以外のもう一つのメリットが、まさかここまで悩ませていたとは思わなかった。

自分でもなぜ、こんなに迷っているのかと思っていたが、そんなたった一つのメリットのためだけに縛られていたんだ。

それを今日、自覚した。

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