"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
多分、初めて会った時。
雨戸を開け、彼女の姿が目に飛び込んできたあの時には惹かれていたんだと思う。
まだほんの数回しか会ったこともないただの隣人だが、話すほど、知るほどに惹かれている。
「つーか、あんな人、気にならない難しいんだよ。絶対そうだ」
いろんな意味で、無駄にドキドキさせられてきた。
綺麗で、笑顔が可愛くて、優しい。
おまけに甘ったるい香りがする。
それなのに、パーソナルスペースはおかしいし、無防備だし、危機管理がなってなくて放っておけない。
きっと彼女は何にも考えていない。
ただのお人好し。世話好きというだけで、下心とか計算とかはない。そういうことができない人だ。
甘い匂いに釣られて捕まったのは、単純に馬鹿な俺のせいだ。
これが恋だとは認めよう。
だけど、若く見えるとはいえ向こうは年上で、十歳も歳の差がある俺のことは子供……よくて弟のようにしか見られていないことも分かっている。
どうにかなりたいわけじゃない。
ただ、もう少しだけ。
まだ時間がある今の間だけ。
隣人として過ごしてみたいと思った。
……善は急げ、だな。
管理人の番号にはすぐに繋がった。
人当たりの良い声で「決まった?」と聞かれ、俺ははっきりと答えた。
「決めました」