"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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「洋ちゃん、ご飯できたよ」

リビングの端、細い扉を開けて声を張り上げる。
だが、返事がない。

そっと足を忍ばせて大和室の前の障子の木枠を入室のノック代わりに軽く叩く。

やはり返事はない。

そっと障子を開けると、資料があっちこっちに散らばっている。その散らばった跡を視線で辿れば男が畳の上で眠っていた。

足音を立てないようにそっと男に近づき、顔を覗き込む。

暇があれば海へ行く男の肌は小麦に焼けてしまったが、端正な顔立ちは変わらない。寧ろ、焼けたことによって精悍な顔立ちになっているようにも思えた。

まるで雲に触れるようにそっと、その男の頬に触れたつもりだったが、男の美しい眉が顰められる。

……怒られちゃうなぁ。

そんなことを思いながら、琴音は男の眉間のシワをほぐすように触れた。

男は目を覚まし、彼女とバッチリ目が合う。


「夜ご飯できたよ」


ふわりと微笑んだ琴音は何か言われる前にさっさと部屋を後にした。





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