"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「持ってる家の一つだからって言ってたけど、本当にいいのか?」


好条件すぎる気がしてならない。

床から半身突き抜けるという辱めを受けた犠牲者ではあるけれど、ここまでしてもらってもいいものなのか?

管理人はあのアパートを取り壊すためにも早く退去してもらいたそうだったが、本当にそれだけのために?


事故物件だったりして。



………なんて、考えて血の気が引く。


やめだ、やめ。


厚意は受け取って、とりあえず住もう。
住んでから考えよう。


「とりあえず掃除だ」


間取りをもう一度確認する。あと一部屋、大きい和室がある。

居間の端に細長い扉があり、開けてみれば廊下が続いていた。右側に障子が連なっており、そこが大和室らしい。

左側は縁側に繋がる窓ガラス。だが、雨戸を閉めているせいで暗い。


「一枚ずつ開けるしかない、か」


一人で一軒家に住むことの大変さを少し感じつつ、小さな溜息を一つこぼし、窓を開ける。

次は雨戸だ。

管理人の言う通り、きちんと改装されていようでシャッター式の雨戸でホッとした。昔ながらの引き戸の雨戸だと流石に一人で開けるのはきつい。


雨戸に手をかける。

ふと、昔見たアニメ映画に出てくるススのような妖怪がザワザワザワッと出てきそうだな、と考えてから勢いよく雨戸を持ち上げた。
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