"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
でも、野菜をうまく育てられれば食材確保もできるし、何よりも琴音との接点ができる。
「相沢さんが教えてくれるなら一つだけ植えてみようかな、なんて」
「分かった!じゃあ取り敢えずそっちに……」
すぐさまこっちに来そうな勢いだった琴音の動きがピタリと止まる。
顔にシワを寄せ、思案顔をしたかと思えばポンと手を叩き家の中へと走っていった。
次に琴音が姿を現した時には片手には梯子、片手にはスコップが握られていた。
まさかと思っていると、塀に梯子が立てかけられ、「お邪魔します!」と、彼女は梯子を使ってヒョイと壁を乗り越えた。
「さっ!種を植えようか!あ、でも今日は町田君は見てるだけでいいよ!焼き芋食べてて!」
「いや、そういうわけには」
「お芋が冷めちゃうから!食べちゃってください!」
「……じゃあお言葉に甘えて、いただきます」
体よく邪魔をするなと言われた気がしないでもない。
だが、今日は大人しくしておこう。
漸く人の手でも触れられるくらいの温度になった焼き芋のアルミをめくり、芋を半分に折るとホクホクと湯気と甘い匂い。
ゴクリと喉を鳴らし、口に入れるとサツマイモの甘みが口いっぱいに広がった。