"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
緊張で汗が頬を伝う。
喉を潤すように唾を飲み込んだ。
「相沢さんって彼氏がいるんですか?」
「へ?」
思っていた質問と違ったのだろう。
ポカンとしている。
秋を迎えたとはいえ、暑い。だが、今暑いのは俺の羞恥がジワジワと体の熱を高めているせいだ。
どうか、顔が赤くなっているのは夕日のせいだと思って欲しい。
「ここに来ることを躊躇してたみたいなので、もしかして彼氏さんが良く思ってないのかなって」
「いやいや、まさか!彼氏なんているわけない!」
そう言って、何故か琴音は首を傾げ顎に手を当てる。
いないとはっきり言っておきながら悩むということはいるということではないのか。
「やっぱりいるんじゃないですか」
「んー。彼氏なんていたことないんだけど。何かが引っかかるというか……。そういう町田君こそ彼女がいるんじゃない?」
まぁ、いっか、と何か吹っ切れたように悩むのを止めてニヤニヤと笑う琴音。
……今、さらっととんでもないことを言わなかったか。
この美貌で彼氏がいたことないなんて嘘だろ。ましてや、こんな美人が三十歳まで誰とも付き合ったことが無いなんてそんな筈はない。絶対にありえない。
こんな美人を放っておくってどんな世の中だ。
高嶺の花ってことか?
「おーい!町田君?」
ひらひらと手を振られ、ハッとして「いません」と、答える。