"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
バイトが終わり、終電で帰る。
潮の香りと波の音だけは聞こえるのに、海は真っ暗で見えない。
秋を迎えてから夜は寒くなってきた。
……そういえば、最近はサーファーを見かけなくなったな。最近は台風も多かったしな。
そんなことを考えながら坂を上る。
どこの住宅もほとんど電気が消えていて、外灯だけが俺を照らす道標。男だから何も考えずに暗い夜道を歩ける。
家の前に着く。隣はもう電気が消えている。
当たり前だが、バイトをラストまですると琴音と会うことは絶対にない。何なら、午後六時以降は全く会わない。
庭掃除を手伝ってくれた時も六時くらいになると必ず夕飯の支度をしなきゃ、と帰っていく。
だから、六時以降は一度も出会ったことはない。
そして、十二時をすぎる頃には表から見れば電気一つ付いていない。
だから、ついこの間まではめちゃくちゃ健康的な生活を送っているな、と感心していた。
少し前、水やりをしていないことを夜中になって思い出したことがあった。
もう一時に近かったし、朝でいいかとも思ったが朝までに枯れていたらまずいと思い、夜中にわざわざ水やりをしたのだ。
あたりは真っ暗でスマホのライトだけが足元を照らす。だが、そんなちっぽけな光よりも一際明るい光を放っていた場所があったのだ。
それが琴音の家。
全く同じ間取りなので、位置的に大和室が煌々と光っていた。人の影もあり、起きているようだった。
……なんだ、起きているのか。
健康的な生活を送っているものだと思っていたが違ったようだった。
それがたまたまなのかどうなのか確認するのは流石に気持ち悪いのでしないが、勝手に次の日を迎えるまでには就寝しているイメージがあったので意外だな、とは思った。
常に夕方六時には家に帰る人が夜更かしするようには思えなかったのだ。
それに、俺が大学に行く時間にたまに家の前を掃除していることもあったので余計に。
兎に角、基本的に生活リズムが違うことは確かだ。
バイトがない日や、サークルの飲み会を参加せずに帰った日くらいしか会うことはない。
手元にある無料券を渡すタイミングがあるかどうかは分からないが、そんな機会があれば必ず渡そうと決めた。