"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
機会はすぐに訪れた。
台風が過ぎ、秋にしては暖かかいよく晴れた日。
いつかの夏の日のように大量の荷物を抱えて坂を上る後ろ姿が見えた。
白いキャップにグレーのロングカーディガンにデニムにスニーカー。シンプルというか地味というか。
あれだけ美人なのに、おしゃれよりも庭いじりを優先しているような人。いつものように動きやすさやいつ汚れてもいい服だ。
それなのに、彼女が着ればその服の価値が上がって見える。同じ服でも着た人が違えばおしゃれに見えるなんて羨ましい限りだ。
すぐに追いついて横に並ぶ。
「持ちましょうか?」
「またしても、すみません」
お礼とともに申し訳なさそうに差し出された袋じゃない方を受ける、というか奪い取った。
相変わらず重い。柔軟剤や洗剤だと思われるものが大量に入っている。
「前にも思ったんですけど、すごい量ですよね。買い溜めですか?」
「……すぐ使い切っちゃうのよね」
この量を?と、呆然としていると「今日は大学?」と聞かれて頷く。
本当はサークルがあったのだが、台風の影響で外のグラウンドが使えなくなり中止となった。
久しぶりに酒井と千葉崎の三人で集まれそうだったが残念ながら叶わなかった。暇になってしまった午後を憂いていたらまさかのラッキーだ。
「文化祭の準備は順調?」
ここで、まさか本人からの話題提供だ。
財布に入れたままの無料券を渡す日がこんなにも早く来ようとは。今日はついてる。
「今のところは計画通り進んでます。出し物は全然問題ないんですけど、ハロウィンが近いせいかみんな衣装に拘ってて。そっちの方が盛り上がってます」
「町田君も何か着るの?」
「御免蒙ります」
「えー!もったいな〜い!折角の文化祭なのに?」
「嫌ですよ、恥ずかしい」