"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
琴音自身の身長は決して低くはないが、男に比べてれば小さく見える。
それに、さっきは恐ろしく目つきが悪く、凶悪なオーラを放っていた男。
そんな男をちっとも恐れず、頭一つ分は違う男の頭を下げさせようとする彼女は強者ではないだろうか。
ただ、それを見事に察知した男は彼女の手首を掴み、下げさせてしまったが。
「町田くんはここまで荷物を運ぶの手伝ってくれたの!それなのに私が慌てて走っちゃったものだから心配して見にきてくれたんだよ!ね?」
同意を求められ、思わず頷く。
男は疑わしそうな目で俺を見た。
「紹介が遅くなってごめんね!この人は相沢大洋|《あいざわ たいよう》さんって言うの!」
アイザワ。恐らく、同じ相沢だよな。
それって、つまり。
「同じ苗字なんですね」
頭が真っ白になっていたせいで、訳がわからないことを口走っていた。同じ苗字。そりゃ、そうだろ。
それなのに、何故か琴音は困ったように大洋を見上げ、下を俯いた。俺が思っていた反応と少し違っていた。
「えっと、この人は私の、」
その先をモゴモゴとさせる。眉を下げ、困ったように微笑んだ彼女はその先を言おうと口を開いた。
「私の「旦那だよ」
続きを言ったのは男の方だった。
俺はポカンとした。彼女も同じだった。
そんな俺たちに小さなため息を吐き出し、琴音の方に手を乗せて面倒臭そうにもう一度言った。
「こいつの夫」