"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
家の中はムワッとした空気に包まれていた。
夏ほどではないが、今日のような暖かい日には締め切られた家の中に淀んだ空気が溜まってしまう。
あの夏の日はもっとうんざりするような暑さだった。
それなのに、彼女の家は涼しく、空気も綺麗だった。
そして、玄関に立てかけられたサーフボードは平家を掃除した帰りにすれ違ったサーファー……つまり大洋のものだった。
前に酒井が言っていた通りだ。
一人暮らしにしてはこの平家は広すぎる。
俺のような例外を除けば、一人でこの平家に住もうとは思わないだろう。
もしかしたら、その例外に当てはまっているのではないかと期待していたが、そうではなかった。
一人暮らしではないから、家は快適な温度だった。
熱中症になっても看病してくれる人がいた。
それは全て夫である大洋のおかげなのだろう。
東京から追っかけできた理由も大洋なのだろう。
俺の家に入ろうとするのに躊躇する理由に頷ける。
相手は既婚者。
つまり、人妻だ。
ほんの少し前に彼氏がいるのか確認した際に今までいたことがないという返答に安心し、確認しなかったがこういうパターンもあるのだと学ばされた。
指輪をしていないからと言って結婚していないとは限らない。
頑張ってみようか、なんて。
とんでもない。
これは頑張っちゃいけないやつ。