"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


まだ、大多数の生徒が使うような主要な駅ではないから人は少ないが、乗っている人の殆どは俺たちと同じ大学生だ。

女子は今日のために髪やメイクがいつにも増して洗練されているし、荷物も多い。男子はもうすでに衣装を着ているが、いつもよりも髪がオシャレだ。

ちなみに、千葉崎は衣装こそ着てないが彼女と合わせた服らしく、フワッと膨らんだ白シャツにスキニー、金色のアクセというシンプルだが俺には真似できないスタイルで隣に座っている。


みんな、今日という日を謳歌するため、いつもよりも気合が入っている。

浮かれた空気が伝播して、見た目は大していつもと変わらない俺も妙にワクワクする。


「……なぁ。酒井じゃダメなの?」

「何が?」

「ゆ〜君の彼女候補」

語尾にハートが付いたような言い方で、手すりに肘をついてこちらを見る千葉崎。

「は?何で?あいつは友達だろ」

「それはゆ〜君がそうだって思っちゃってるからそうとしか見えないんだろ?案外お似合いなんじゃね?」

「お前ほどじゃないが、俺もあいつと結構言い合いするぞ?それのどこがお似合いなんだよ?」

「言い合えるからじゃん。察するに、ゆ〜君って付き合った子と喧嘩したりしたことないだろ?」


思い返してみて、大学で付き合った彼女は交際期間が短すぎて喧嘩するまでに至らなかった。だが、高校の彼女は二年という時間の中で喧嘩なんて殆どした覚えがない。

たった一回だけ、別れた日に怒られたことはある。

『悠介って嫉妬したり、怒ったり、不安になったりした!?私ばっかりこんな気持ちになってる』と。

そんなことはないと反論したが、聞く耳持たずだった。あれは言い合いに入るのか。


「色んな感情引き出してくれる女子って今の所、酒井くらいなんじゃないかな〜っと思ってさ」

「……もし、互いに言い合える関係がいいっていうなら、お前と酒井がお似合いなんじゃないか」

「何でそうなるんだよ〜。大体俺には既に何でも言い合えちゃう可愛い〜彼女がいるんで」

「ソーデシタネ」

棒読みで返すと、千葉崎は肩をすくめてそれ以上は何も言ってこなかった。


しかし、大学に着き、それぞれの出し物の場所へ向かおうとした時だ。

「視野を広げるためにも、まずは身近な所から見ていくのもありなんじゃないってことだよ」

急にそんなことを言われ、一体何の話だ、と首を傾げ、電車での話のことかと気付いた時には千葉崎の姿はなかった。





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