"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる


「相沢さん、それは多分気付いてないだけだと思います」

彼氏がいないのは百歩譲って、あり得ると思う。
交際期間なしに大洋という旦那ができるのは十分あり得ることだ。

だが、モテないというのはあり得ないだろう。琴音でモテないと言うのなら、この世の殆どの人がモテないと断言できる。

本人が気付いてないだけだ。
天然な彼女なら十分に考えられる。

トントンと肩を叩かれ、ワッフルが乗った皿を渡される。渡した本人はなぜか後ろの方へ行ってしまった。

俺がいるのは受付口で、その隣が受け渡し口だ。

客と話しているなら渡してくれと言うことなのだろうが、俺を介さず渡した方が早いんじゃないか?

そう思いつつ、琴音に出来上がったワッフルを渡す。


「美味しそう〜!」

「熱いので気をつけてください」

「はーい!町田くんはこれでお仕事終わりだっけ?」

琴音の問いに頷くと、ペコリと頭を下げられた。

「暑い中お疲れ様でした。今日は誘ってくれてありがとう」

「こちらこそ、来てくれてありがとうございました。旦那さんにもお伝えください」


琴音はにこりと笑って頷き、後ろにいるスタッフに会釈をして大洋の元へ行った。


さて、俺も交代しますか。

エプロンを脱いで友人らの元へ向おうとすれば周りを囲まれた。


「おっまえ、何だあの美人は!?神々しすぎて目に入れることすら出来なかったわ!」

「いや、あの美人も気になるところだけど!お金出してたイケメンよ!あの人は誰!?」

口々に「あの二人は誰だ」「どんな繋がりだ」と、言われ、ただでさえ疲弊しきった頭がパンク寸前まで追い込まれる。

ただの隣人だ!と、叫ぶのはギリギリ踏み止まった。
言ってしまって後々、家に押しかけられても嫌だ。

「ただの知り合い!分かったら今からシフト入ってるやつは仕事しろ!!一般人だからあの二人を見かけても邪魔すんな!以上!解散!!!」


叫んだ効果か、周りが一気に鎮まった。
隙間を見つけて擦り抜け、誰かが使うだろうと、エプロンをその辺の机に置く。


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