"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「あの〜すみません。注文いいですか?」
美形夫婦が買った効果か、ミスコンで遠のいていた客足が復活し始めていた。さっきまで尋問すべく取り囲んできた奴らは慌てて準備に取り掛かった。
「悪い、待たせた」
屋台の裏で待っていた友人らと合流する。
「あのタイミングで知り合いの客が来たら仕方ねーって!それより早くミスコンの結果見に行こうぜ!」
みんな今日の目玉イベントに胸を躍らせ、「誰推し?」なんて話をする。「悠介は?」と聞かれ、とりあえず有名な女子の名前を挙げた。
「しっかし。さっきの客は綺麗だったなぁ」
それにみんな同調し、「わかる」と声を上げる。
「でも、酒井の時みたいに食いつかなかったよな?」
琴音が来た時は屋台の端まで下がって、チラチラと見るだけ。目を合わせない奴もいたり、見惚れるだけであったり。
それなのに、酒井の時はすぐに飛びついていた。
「馬鹿!あんな美人に話しかけられる奴がどこにいるんだよ!?心臓止まっちゃう!」
「あれは同じ空気を吸うことすらも許されない何かがあったよな」
「逆に町田が普通に喋ってんのが信じられなかった」
確かに、今日の琴音はいつもの何倍も美しく、息をすることすら忘れてしまった。心臓が止まる、と言う気持ちもわかる。
でも、彼女は庭いじりやスーパーに行く姿であっても美しい。どんな格好をしていても綺麗だ。
普段からあの美しさを目にしていたからある程度の耐性はついてきたのかもしれない。
屋台の後ろの方に下がってこっちをチラチラ見れればまだいい方で、目を向けることすらできていない奴もいた。
もしかして、モテないと言っていたのはこのことか?
彼女は高嶺の花。
誰も近づくことができない、みたいな。
「結局、どこで知り合ったんだ?」
誰かがその質問をすると「吐け!」と、自供させようとする警官のように言ってくるが、「さぁ」ととぼけたフリを決め込む。