"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「気になるじゃん〜!さっき珍しく悠介が声荒げてたしさ〜!」

「俺も思った!悠介って普段全然感情的になんねーからみんなびっくりしてたよな!」

「そりゃあんだけお客相手にしてて、まだ余力ある奴らに囲まれて尋問されたら疲れんだろーが」

「本当にそれだけか〜?」

疑いの目を向けられた。

「そうだよ」と、言おうとすれば。



「あ、噂をすれば!」

バシバシと肩を叩かれた。友人が指差した先はまだ緑の葉の紅葉の木。

その下にあるベンチに座り、美味しそうにワッフルを食べる琴音とつまらなさそうにパンフレットを眺める大洋がいた。


「彼氏もめちゃくちゃイケメンじゃん」

「やっぱり、美人同士がくっつく世の中なんだよな」


あーあ、と落胆しつつ、通り過ぎ様に二人を見つけてしまった俺たちはこの後もっと虚しい思いをするはめになった。


琴音がトントンと大洋の肩を叩き、彼が振り返ると、一口サイズのワッフルを口元に持っていったのだ。


フォークの上のワッフルには生クリームや苺がたっぷり乗っている。


大洋は嫌がるんじゃないかと思った。
人に食べさせてもらうのも、甘ったるいものも嫌がるのではないか、と。


だけど、結果は違った。


大洋は差し出されたワッフルをパクリと口に入れ、咀嚼した。


遠くて流石に聞こえないが「美味しい?」とでも言ったのか、彼女は口をパクパク動かして、大洋は頷いた。

それに琴音は幸せそうに微笑んだ。


それから自分の口に苺を放り込んだ琴音だったが、琴口元に生クリームがついた。

けれど、本人は全く気づいていなかった。

彼女らしいな、と思わず笑みがこぼれた時だ。

気づいた大洋も呆れたように笑って、親指で口元についた生クリームを取り、自分の口に運ぶ。

その動きがスマートで、やけに色っぽくて。
……ただただかっこよかった。
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