"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
ミスコン会場についた俺たちはなんだかどっと疲れていた。間違いなく精神的疲労だ。
ここにいる全員が現在彼女なし。
つい最近フラれたものもいれば、ずいぶん彼女がいない俺みたいな奴もいる。
そんな男どもがリア充の権化のような大洋や琴音の甘ったるい雰囲気を見せられれば虚しくもなる。
「もうリア充のことは忘れようぜ!」
誰かがそう言った。
直後、ドンと爆発的な音が鳴ってお洒落なBGMが響き出した。
会場全体の熱気が一気に上がり、最高潮に達したところで最終戦まで残った女子五人がステージ上に一人ずつ現れた。
法学部の才色兼備、文学部のアイドルなど、キャッチコピーつきで簡単な紹介がされ、集結した五人は確かにみんな可愛いし、綺麗だった。
大学全体で認められた美女たちだし、そりゃあ見た目はいい。おまけに、自称ではあっても何かしらの特技だってある。
その特技は料理という女子力が高そうなやつでも、モノマネみたいに賛否が分かれそうなものでもとにかくなんだっていい。ショボくたっていいんだ。
要はそれでいかに観客たちの視線を集められるか、アピールできるかということが重要なのだから。
その点、彼女たちは自分を魅せる術を知っているので上手い。
友人らはさっきの夫婦の出来事なんてもうすっかり忘れて目の前のミスコン候補者に夢中だった。
友人だけじゃない。会場にいる全ての人が舞台の上に夢中だ。
だが、俺はといえば、未だにその熱気に乗り切れずにいた。
出場者の名前も顔も知ってはいたが、この場に来て漸く顔と名前が一致したくらいだ。さして、興味もなかったというのもある。
とにかく、今目の前にいるミスコン優勝候補達には夢中になれない。
頭の中はずっと屋台や紅葉の木の下にいたあの二人のことばかりだった。