"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
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ーーなに、あれ?なにあれ!なんなのよ!!

友人達が先に向かったミスコンの会場となっている野外ステージとは真逆の方向へ向かう絵里。

彼女は今日、悠介にお土産を渡しに行くつもりで会いにいった。そのついでに、働いている所を見れたらと思っていた。

それなのにうっかりと当初の目的を忘れ、後者だけを叶えてしまったので、本来の目的を遂行すべく、ワッフルの屋台へ向かった。

それがまさか、あんな場面に出会すとは思いもよらなかった。



時は少し遡る。

夏休みに旅行先で悠介にお土産を買った。

次に会った時に渡そうと思っていたら、台風でサークルが無くなったり、文化祭の準備やバイトで悠介が参加しない日が多くなってしまい、なんだかんだ会えず、渡せないまま時だけが経ってしまった。


個人で会おうと言う勇気はなかったのだ。


だから、文化祭で会えたら渡そうと決めた。

絵里は女子大なのでミスコンがない。友人はミスコン目当てに最終日ならついて来てくれると言ったが、悠介にとって都合がいい時間が最終日とは限らない。

どうやって聞こうか悩んでいたら、千葉崎からメッセージが来て、それが悠介のシフトだった。

あまりにタイミングが良すぎて逆に気持ち悪いとさえ思ったが、普段は憎たらしくて仕方ない男に感謝だ。


すぐに友人に事情を説明し、ミスコン前に会いに行きたいと伝えれば、「文化祭の服を買いに行こう!」と、嬉々としてショッピングに連れて行かれた。

これを着ろ、あれを着ろと次々に服を渡され、試着室に閉じ込められ、三時間近くああでもない、こうでもないと品定めをされた。

その中には総レースの真っ白なワンピースなんてものも入っており、そういった可愛らしいものを絵里が断固として拒否したのもあって絵里と友人が納得するまでにそれだけの時間が掛かったのだ。


買ったのは黒のワンピース。
レースやビーズといった飾り気一つない黒一色というシンプルなもの。

しかし、言い換えれば友人達が持って来た中で絵里にとって一番マシだったもの。

普段の彼女はTシャツに短パンといったスタイルが多い。足を出しているから一緒でしょ?とよく言われるが、断じて一緒ではない。

風が吹けば、フワフワと心許ない思いをするのとしないのとでは大きな差がある。

正直、この黒のワンピースですら本当は着たくなかった。

ーーーでも、着たら少しは女の子らしくなれるかもしれない。


普段とは違った姿を見せることで、少しくらいはドキッとしてくれるんじゃないか。

そう考えれば、恥ずかしくても耐えられるような気がした。


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