"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
当日。
朝早く絵里の家まで押しかけて来た友人たちに頭の先から爪の先まで整えられ、酒井絵里ではない誰かが出来上がった。
友人も驚く出来栄えだった。
「やっぱり、絵里はポテンシャルが高かった!」と、友人達は喜んでいたが、それは全て彼女達の魔法のおかげだと絵里は思った。
変貌を遂げた絵里に次々と声がかかる。
「連絡先を教えて」「名前は?」「今度ご飯に行かない?」と、中には同じサークルの人もいた。
絵里はワクワクしていた。
悠介は何ていうだろう?どんな反応をするだろう?
なんて言葉を言ってくれるんだろう?
魔法にかかった絵里はなんだか無敵なような気持ちになって、淡い期待と共にワッフルの屋台の前に立った。
予想通りびっくりした顔で絵里を見る悠介。
ポカンと開けられた口がなんとも間抜けで、絵里はクスッと笑った。
しかし、一向にそれ以外の反応を示さない悠介に段々と不安になってくる。
ここに来るまでたくさん声をかけてもらったことで得た自信が一気に地の底だ。
……変なら変って言えばいいのに。
なにも言わない悠介に思わず仏頂面で「何よ」なんて可愛げのないことを言ってしまう。
漸く、反応を示した悠介は何故か屋台の奥へ行ってしまった。
ガッカリだった。
だけど、安堵もしていた。
おかしいならおかしいと言えと思うのに、言われたら言われたでショックだ。
悠介がいない僅かな時間はそういう緊張感から解放される束の間の休息だった。
戻ってきたらまた緊張してしまって段々顔まで強張ってきた。
そんな絵里には気づかず、悠介は絵里のワッフルはタダだと言って無料券を見せる。
貰っていいのか聞けば予想外な言葉が返ってきた。
「酒井に渡す分だったからいいんだよ」
わざわざ取りに行ってくれただけでも嬉しかったのに、自分のために用意されていたと言われて絵里は顔が真っ赤になった。
まるで、自分だけが特別だとでも言われているような気になってしまうが、悠介が自分のことを友達としか見ていないことはよく理解している。