"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
ーーーいた。
けれど、悠介の前に女性客がいる。
背筋はスッと伸び、手足はすらりと伸びていて、後ろからでも分かるほどスタイルが良い。
女性の顔は見えないが、悠介の顔を見れば分かった。
惚けたような顔を出すまいとしているのだろうが、絵里にはその表情の意味がわかってしまった。
悠介の口元が動く。
ーーー止めて。
そんな思いも虚しく、悠介の口は止まらなかった。
「相沢さん、とっても綺麗ですね」
ザワザワと辺りは騒がしいのに、それだけははっきりと聞こえた。
人集りができ始めた。
その間を縫って、とにかくこの場から離れようと足を動かした。
「酒井?」
千葉崎の声が聞こえたが、気にしていられない。
頭の中は絵里にはくれなかった言葉を簡単に吐いた悠介への怒りが占めていた。
だけど怒ったって仕方ないことも分かっていた。
ただの友達。
それも普段は男友達と同じように過ごしているのだ。
女という認識はしていても、男みたいだと思っていた友達が急に変化すれば戸惑うし、褒めるのは恥ずかしいだろう。
だから、あれが悠介にとって精一杯の褒め言葉なのだと思っていたのに。
ーーーなんだ。言えるんじゃん。
「相沢さんって、誰だっけ」
どこかで聞いたことがある。
だけど思い出せない。
「ゆ〜君の隣の家の人だよ」
よく知る声に振り返ると、千葉崎がいた。
振り返った絵里に千葉崎は目を見開き、何度か瞬きする。
「見違えたね〜、めちゃくちゃ綺麗じゃ〜ん!」
「……どうも」
女子の変化に聡い彼らしく、欲しい言葉をくれる。
だが、欲しかったのは千葉崎からではなかった。