"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「それで?相沢さんと鉢合わせでもした?」
「鉢合わせっていうか……」
ちら、と千葉崎を見やる。
また、いつもの調子で揶揄われるかもしれないと思うと気が乗らないが、相沢という女について知っているのは千葉崎しかいない。
絵里は諦めてさっきの出来事を話した。
「あ〜、やっぱり気づいちゃったか」
「やっぱりってことは知ってたんだ」
「ゆ〜君には内緒な」
人差し指を口に当てる仕草をする千葉崎に絵里は頷くしかなかった。
千葉崎と悠介の間でしか知らないことを彼女が知っていれば怪しまれる。
「でも、安心して良いよ。相沢さんとゆ〜君が発展することはないから」
事情を知っているとは言え、やけにきっぱりと言い切る。流石にどうして、と聞かざるを得なかった。
「言い切れる理由は?」
千葉崎から笑みが消え、さっきまでの戯けた調子がなくなった。
「俺からは言えないね。だけど、もしあの二人が恋愛関係なんてことになったら待ち受けるのは地獄だ」
いつもはふざけている千葉崎が真面目な顔で話すので、絵里は思わず息を呑んだ。こんな真面目な姿を初めて見る。
この男をそうさせるくらい、相沢という女には何かがあるのだということは察せられた。
しかし、千葉崎は千葉崎。
真面目な姿はそう長くは続かなかった。