"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「まぁ、あの鈍感真面目なゆ〜君がそう簡単に陥落されるとも思えないけど!理性なんていつ壊れるか分かんないじゃん?だからこれからも酒井にはうーんと頑張って貰いたいわけですよ!」
まるで、どこか遠くの星を眺めて夢を説く監督と鼓舞される教え子のように肩を組まれ、グッと距離が近くなる。
絵里はすかさず、押し返して距離を取り、バシッと一発殴っておいた。
そんなに力を加えていないのにわざとらしく痛そうな素振りをされて、周りからすれば絵里が悪者のような目で見られた。
先に手を出してきたのはこいつなのに!と声を張り上げてやりたい思いを何とか堪えていると。
「とにかくさ、不器用で天邪鬼な酒井のために俺も色々協力するからさ。何かあったら何でも言えよ」
「何それ、なんか企んでるの?」
普段、ふざけてくる奴が妙に真面目な態度を取ってくるので調子が狂う。
おまけに、そんな奴の前で泣いてしまった。揶揄われる材料にされるのはいつものことだが、脅されたっておかしくはない。
「え〜、お前の中の俺って本当に評価低いな。………別にそんなつもりはなかったけど、そう言うなら何か企んであけでもいいけど?」
「結構です」
「ははっ、冗談だって。……そんなに信用ないなら、一つだけお願いしようかな」
じっと絵里の目を見つめる千葉崎。
何だかんだまともにみたことがなかったけれど、モテるだけあってそこそこ顔が整っている。
そんな顔に見つめられてドギマギしてしまうのは仕方ない。
ーーー何なのよ。