"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「今じゃなくていいからさ。俺がどうしようもなく、耐えられそうに無くなったら……その時はどんな手を使っても助けてよ。その代わり、俺は酒井達が上手くいくためなら何だって協力する」
これでwin-winだろう?とでも言うのか。
どんな手を使っても、なんて物騒な言い方に簡単に頷けるわけもない。
たが、あまりにも真剣な目で見つめられ、断れない雰囲気にさせられる。
絵里は思わず頷いてしまった。
了承を得た千葉崎はにかっと笑って「約束な!」と、絵里の小指を無理やり立たせて自身の小指と絡ませる。
周りが見ている中、無理やり指切りげんまんをさせられて恥ずかしくて仕方がなかったが、思っていたよりも力が強くて解けなかった。
肩に手を回された時は簡単に解けたというのに、小指が解けない。手加減されていたことが悔しい。
最後まで指切りげんまんをさせられると。
「さーてと、酒井も泣き止んだことだし?そろそろ彼女のとこに戻りますか。お前もこっちだろ?」
泣いたことを掘り返され、ニヤニヤした笑みを向けられた。
「あんたとは行かないから!さっさといけば!」
苛立ちを隠さず、声を張り上げて千葉崎が通ってきたであろう道を一人で行けと指差した。
「はいはい」と、待ってくれている彼女の元へ向かっていった。
一気に疲れがどっと押し寄せてきたので、取り敢えず水分補給をしようと鞄に手をかけた。
「あれ?」
さっきまで握っていたはずのハンカチがない。
周りを見ても落ちていない。
ーーーさっきの指切り!
思い返してみると、指切りをするなら小指だけでいいのに一旦全ての指を開かされた。その時にハンカチを回収されたのだ。
「わけわかんないやつ」
普段はただチャラいだけのくせに真面目な顔を見せたり。真面目な顔したかと思えばすぐにふざけたり。
飄々としていて掴めない。
だが、いつのまにか悲しみも怒りも無くなっていて、いつも通りの自分に戻れていた。
それが全部、千葉崎の計算だったとしたら恐ろしい。
「……まさかねー」
絵里は妙な約束をしたことを忘れるように頭を振り、暫くしてから友人と合流するのだった。