溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「………どうしたんですか?急に怖い顔をして………」
「っ!ご、ごめんなさい………何か、引っ越しの準備で疲れたのかな?ボーッとしてしまって……」
また、自分の考えに没頭していた風香は、呆然としてしまっていたようだ。そんな風香の顔を和臣は心配そうに覗き込んだ。
突然、和臣と目が合い、風香はビクッと体を震わせた。
そんな風香を和臣は真顔のまま見つめた。
「………どうしたの?和臣さんこそ………」
「風香さん。もしかして、この薬の事知ってるんですか?」
「………ぇ………」
彼の温度のない声、そしてまっすぐに見つめる視線。風香は体が固まってしまう。
この薬の事を知っていたら、どうなってしまうのか。そんな恐ろしさを彼から感じられた。
「………知らないです」
「本当に?」
「知らないですよ!どうしてそんな事聞くんですか?」
風香は咄嗟に明るい声を出して彼に返事をした。作り笑顔になってしまっているかもしれない。けれど、そうするしか風香にはなかった。
「……何だか興味があるのかと思いまして……」
「いえ、そんな事は………。あ、あの……実はこの後に仕事の打ち合わせがあるんです」
「あぁ。そうなのですね。今回はご足労ありがとうございました。また、何かありましたら、連絡くださいね」
いつものように明るい笑顔で微笑む和臣には、先ほどの恐さを感じる事はなかった。
けれど、風香はすぐにその場から離れてしまいたくて、店の前で和臣と離れたのだった。