溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「薬………飲まなくちゃ………」
そう呟きながらノロノロとキッチンに向かう。いつものカプセルを取りだしながら、風香はそれを飲んでしまうか迷っていた。
前回飲んでから、まだあまり時間がたっていなかったのだ。普段ならば1週間空ける必要があるが、前に飲んだのは確か3日前だった。
けれど、この頭の奥が重く感じる違和感はあの頭痛の前触れだと風香は感じられた。
もう数ヵ月もこの感覚があるのだ。風香にはわかった。
また頭痛に襲われると自分も苦しいが、柊も心配してしまう。
そう思うと、薬を飲まないという選択肢はなかった。
「大丈夫よ。これはただのサプリメントなんだから」
そう自分にも言い聞かせて風香は、いつもの薬を服用した。
それは和臣から貰ったもの。そう思うと少しだけ不安にもなったけれど、それで本当に体調がよくなっていたのだ。風香には合っている薬なのには違いはないはず。
それに、もう薬は体の中に入っている。もう吐き出すしか方法はない。
「ふー………頭の中がまっさらになるみたい………痛みもなくなったわ」
しばらくすると、先ほどの痛みが嘘のように消えてしまっていた。
風香はホッとしてまた、仕事に取りかかろうとソファから立ち上がろうとした。けれど、体に力が入らないのだ。
「あれ………」
足の力が抜けていき、自分がどのように立っていたのかもわからなくなってしまった。
ガクッと体が沈み、「倒れてしまう」と思った瞬間には風香の体は床に倒れていた。
体に痛みを感じているのに、全く力が入らない。
「何これ………」
そして、そのまま強い眠気に襲われてしまい、風香は瞼を閉じた。
夢の中で、何か怖いものを見たような気がしたけれど、風香は起きるときには、また忘れてしまっているのだった。