溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 柊の部屋には、記憶を失くす前に風香が置いていた私物が数多くあったはずだ。それに、風香との思い出の品も多数飾ったり保管したりしていた。けれど、それら全てがなくなっているのだ。そうなると、それをどこかに片付けているはずなのだ。ここから外に出してしまっていたら行方はもうわからなくなってしまうが、この部屋にあったのならば何か手がかりが掴めるのではないか。
 そう風香は考えた。


 まず始めに、風香の仕事部屋になっている部屋を探した。けれど、ここは同棲するために最近荷物を整理したばかり。その際も何もなかったので、すぐに違う部屋へと向かった。
 彼の書斎は小さい部屋なので、そこまで大きなものを隠せる場所はなかった。そのためそこも探す前に除外した。


 「となると、1番怪しいのは寝室………」


 風香はそう呟いて寝室に入った。普段寝ている部屋であるが、クローゼットはあまり使用していない。中には布団やシーツ、そして柊の衣替え用の服などが置かれていたので、なかなか開ける機会がなかった。
 風香はクローゼットの扉を開けながら中を見渡したけれど、風香の探しているものが入っているような棚や箱はなかった。
 けれど、少し違和感を感じた。


 「………このクローゼット………こんなに小さかったかな?」


 大きなクローゼットのはずなのに、何故か物がパンパンに入っているように見える。風香は手前にある荷物を全て出して見ると………違和感の理由がよくわかった。クローゼットの奥行きが狭くなっているのだ。


 「もしかして、この壁………動く?」


 風香がクローゼットの奥の壁に手を触れた瞬間。
 その壁が傾いた。
 どうやら大きな板をクローゼットの中に入れて偽物の壁を作っていたようだ。



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