溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「………動いた…………けど、なんでこんな大がかり仕掛けを……」
風香は唖然としながらも、その板をゆっくりとずらしていった。大きな物だったので、全て取り外す事は難しかったのだ。
板が大きく傾くと、クローゼットの奥から段ボールが見えた。
「やっぱり何かあるわ」
風香は緊張した気持ちになりながら、その段ボールをひっぱり懸命に引き寄せた。とても重かったけれど、何とか寝室の床に置く事が出来た。
段ボールを開けるのはとても緊張した。
この大きな箱の中に何が入っているのかわからないのだ。柊の大きな秘密が入っているかもしれない。そう思うと、開けてしまうのが怖くもなった。
けれど、ここで目を背けてしまえば、柊の事を知るきっかけがなくなってしまうかもしれない。
風香は意を決して段ボールを開封した。
中身を見た風香は、驚きながらもホッとした。段ボールに入っていたものは、風香が柊の部屋に置いていたものだった。洋服などの日用品や食器、旅行で買ったお土産、パジャマなど懐かしいものが段ボールいっぱいに入っていた。その中には風香が彼にプレゼントしたものを入っていた。
「………私の荷物だ………やっぱりまだこの部屋にあったんだ。けど、どうしてこんな風に片付けてしまったの………」
そう呟きながらも考え付くのは、メモリーロスを飲む前に柊が風香のものを片付けて、自分からも風香からも隠してしまったという事だ。そうなると、いよいよ柊が風香を忘れたがっていたのでは、という線が濃厚になってしまう。
やはりそうなのだろうか。
そんな不安が風香に押し寄せてくる。
段ボールの中身を見つめながら、この恋は終わりなのかもしれないなど悲観的になってしまう。
そんな時だった。
1つ1つ手に取って中身を確認していくと、風香の見覚えのないものが出てきた。
いや、覚えている。美鈴との旅行に行き、彼のお土産の菓子を渡した事があった。缶に入っている、その土地で有名なビターチョコ。甘いものをあまり食べない彼に買ってきたのだ。その菓子が入っていた箱が何故か風香の私物が保管されていた段ボールに混ざっていた。