溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
柊は背筋をピンッとさせて、少し俯きながら手に持ったコーヒーを眺めていた。風香には彼が今、なにを思っているのかはわからない。
けれど、全てを知った後、彼が悩んでいた事がわかるような気がしていた。
「少し長い話しになる。もし、君の体調がわるくなったらすぐに言って」
「わかった」
「じゃあ、話そうか。俺が君に話せなかった事を。とても心苦しい時間の事を………」
2人は持っていたコーヒーをテーブルに置く。
そして、柊は隣に座る風香の片手を握りしめた。それは風香を安心させるためなのか、自分の事を落ち着かせるためなのかはわからない。
けれど、風香はその手を繋いでいる今がある限り、何を聞いても大丈夫であろう。そう思った。
「風香ちゃん、君は………俺が記憶を失くしてしまい、それの原因がメモリーロスなのだと思っていた………違うかな?」
意外にも話しは重要なところからスタートした。
いきなり、1番知りたかったことを問い掛けられ、風香は驚いてしまう。そして、彼の口からその言葉が出た事に、風香は唖然として声が出なかった。
「しゅ、柊さん………それを知っていたの?」
「ごめん………君がそう思ってしまうだろうなとわかっていたし、それが1番の目的だったんだ」
「……目的………?」
風香は鼓動が早くなるのを感じながら、柊の瞳をジッと見つめた。
すると、柊は1度視線をそらしながらも、すぐに風香の目をしっかりと見つめた。
「メモリーロスを飲んで記憶喪失になっていたのは、風香ちゃんの方なんだ」