溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「ダメです!!行くんですっ!」
そう言うと、和臣を柊の手を取って引っ張りながら歩き始めた。
「青海さんだって、知ってますよね?メモリーロスの過剰摂取で苦しんでいる人がいる事も………そして、死んでしまう可能性がある事も!それでも、風香さんの姿を見ずに柊さんはいられるんですか!?」
「…………そう、だな。すぐに向かおう………。風香が心配なのは俺だって同じだ」
後輩に背中を押される形で、柊はやっとの事で重い足を動かした。柊は、滝川に「風香のところに行きます」と伝えると「当たり前だろ!さっさと行けっ!」と、怒鳴られてしまった。
玄関に向かうと、すでに和臣が車を出していてくれていた。助手席に乗ると、「風香の家に向かってくれ。今、そのにいるらしい」と伝えた。和臣は捜査をするにあたって、風香の家の住所を知っている。「わかりました」というと、和臣はすぐに車を出した。
「………さっきは悪かった。おまえにあんなことを言わせて」
「俺こそすみません。先輩に向かってあんな態度を………」
「いいんだ。和臣の言う通りだ」
「…………俺みたいな思いをする人は、これ以上増えて欲しくないんです。もちろん、風香さんや青海さんにも………」
そう言って、和臣はしっかりと前を運転氏ながら苦笑した。
和臣はいつもメモリーロスの薬を持ち歩いていた。それは、彼のものではない。和臣の友人のものだった。その友人はメモリーロスの過剰摂取で死亡したのだ。裏社会で取引されているメモリーロスは成分が強いものも多かった。そのため中毒性や精神障害を引き起こしやすいのだ。それを多量に接種してなくなった。
警察になって守れると思っていたけれど、自分の近い人間さえも守れなかった事に和臣は大きなショックを受けた、と柊は聞いたことがあった。そのため、和臣がもっているメモリーロスは友人の遺品なのだ。
メモリーロスで苦しむ人をなくしたい。
そう思い続けて仕事に励んでいるのだ。
「………無事でいてくれ、風香………」
いつもは数分で到着する風香の家。
だが、柊は何十分もかかっているように感じた。
祈るような思いで、風香のマンションがある方向の夜空をまっすぐに見つめたのだった。