溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「………それにしても、本当に柊は私に秘密ばかりだったのね」
ため息をつきながら、少し意地悪な事を言うと、柊は「あ、でもヒントはあげたんだよ?」と言った。
けれど、風香はその事について全く気づいてもいないのだ。風香が首をかしげながら、いろいろ考えてみるが、ヒントなんてあったのか、と思うぐらい何もわからなかった。
「アスターステラホワイト」
「………柊がプレゼントしてくれたお花?それがどうしたの?」
「その花言葉は何だと思う?」
「わからないわ」
「『私を信じてください』」
「気づくわけないじゃい」と言ってしまいたかった。けれど、柊はプレゼントにまで意味を込めてくれていた。それを、知ってしまっては文句を言えるはずもない。怒りたいはずなのに、嬉しいと思ってしまうのだ。
「…………もう、演技はおしまい?」
「あぁ………もう、『風香ちゃん』じゃくて、『風香』って呼んでいるだろう?」
「じゃあ、私も『柊』って呼んでいいんだよね?」
「あぁ。呼んでくれ」
風香は、潤んだ瞳で彼を見上げる。
そこには、何も変わっていないはずなのに、少し昔の柊が居た。記憶を失うふりの前の、彼だ。
「柊………おかえりなさい」
「あぁ………本当の風香が帰ってくるのを俺も待ってるから」
「…………うん」
「風香、愛してるよ」
「私も愛してる、柊」
お互いに目を瞑り、梅雨の晴れた間の温かい日差しが入る部屋で、久しぶりの2人のキスの感触を味わったのだった。