溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
一人旅の夜。
風香はスマホを握りしめて、ずっとある事を検索していた。
検索ワードは「メモリーロス」。
メモリーロスとは、世間で話題になっているドラックだった。
そのドラックは特殊なもので、幻覚症状や気分の向上などはない。
ただ一つの特性だったが、それがある一定の人々を虜にしていた。
薬を服用した事で、自分が忘れたいと強く望んだ物事を忘れることが出来るのだ。
柊は風香だけの事を忘れている。
それはメモリーロスを飲んだ事により引き起こった結果ではないかと風香は考え付いたのだ。そう考えると、彼が風香の前から突然姿を消し、記憶を無くているのかが納得出来る。
ただ、誰にも会わずに1ヶ月も離れていた事は謎のままだった。
そこまで考えて、もしそれが本当だったらと思うと、強くショックを受けてしまっていた。
メモリーロスを飲んで、風香の事を忘れようと望んだのは、紛れもなく柊という事になるのだ。
恋人であり、婚約者でもあった柊が自分を忘れようとドラックに手を出した。
もしそうだとしたら…………彼はそこまでして、風香から離れたいと願っていたのだろうか。
何故?
どうして?
…………私の事が嫌いになったの?
そう考えては、悲しみが込み上げてくるのだった。
もし、彼が本当に自分の事が嫌になって忘れてしまったのであれば、折角記憶を失くしたのに、また会う事になってもいいのだろうか?
そんな事さえ思ってしまうのだ。
「はー………。あ、薬………私も飲まないと」
柊がいなくなってから、不安になってしまったせいか、なかなか寝付けない日が続いていた。柊の後輩である和臣におすすめのサプリメントを教えてもらい、風香は週に1度それを飲むことにしていた。飲みすぎもよくないとの事だったので、不安定な時に服用するようにしていた。
ポーチから薬を取りだし、薬を水で喉に流し込む。
昨日はお酒、そして今日は薬のお陰で何もかも忘れてぐっすり寝れるはずだ。
風香は、眠りの世界へと逃げ込んだのだった。