溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
メモリーロスの薬は「ムイストホイト」と言われる薬だ。
だが、医師の治療や処方がないと飲めない薬であり、なかなか処方されない薬だったが、忘れたい過去がある人々から求められる声が多かった。その人達を客にしようと高値でムイストホイトを売り付ける悪徳業者が出始めた。正規のルートで購入していないため、副作用に苦しんだり、薬を飲み過ぎて病気を発症したり、医師の治療がないまま精神疾患をかえって悪化させる人達が増加したのだ。そのため死亡事故も多くなっていた。
メモリーロスは悪徳業者がムイストホイトの呼び名を変えたものだった。その方が、売れると思ったのだろう。その考えは正解だった。
サプリメントのように気軽に飲む若者も増えていた。
そのため、警察はメモリーロスは医療目的以外の使用は、危険ドラッグとして違法薬物に認定したのだ。
「………その薬を柊が飲んでいるの?」
そこには、飲み続けて数年が経ったり、大量に接種すると記憶が抹消、パニック障害などの精神疾患、酷いときには死亡もありうると書かれていた。
彼はそんなものを口にしている可能性があるのだ。
けれど、突然現実を突きつけても彼は混乱するだけだという和臣達警察の考えもよくわかる。
「もう、どうすればいいの…………」
大きなため息と共に風香は言葉を洩らしてしまう。
風香は、柊のために何が出来るのか。
それを考える日々が続いた。