溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
1話「旅行前夜」
1話「旅の前夜」
高緑風香は、これまでの人生で初めて絶望を味わっていた。まだ28年しか生きていないが、それでもこんなにも苦しくて、毎日泣いて過ごす日々がくるなんて思ってもいなかった。
「…………柊」
風香は、彼から連絡のないスマホを見て、また泣きそうになってしまった。仕事にも手がつかない日々が続いており、休日返上で作業をしているが、それでも何度もスマホを見てしまう。何か通知が来る度に、咄嗟にスマホの画面を見てしまう。そして、大きくため息をついてしまうのだ。
その時に画面に表示されたのは、「久遠美鈴」の文字。風香の1番仲が良い友人だった。そんな美鈴相手でも、電話に出る気分ではなかったが出ないわけにもいかない。小さく息を吐いてから通話ボタンを押した。
「もしもし……」
『風香、大丈夫………じゃないよね。もう声が死んでるよ………』
自分では普通の声のトーンで電話に出たつもりだったが、彼女にはすぐにバレてしまったのだろう。それとも、本当に声が普段とは変わっていたのか。
まだ泣いてしまうぐらいなのだから、精神的に安定はしていない、と自分の事を客観的に見てしまえばそうなのだろう。
けれど、そんなに簡単に元気になるわけでもないのだ。