溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
柊は自分が泣いていた事も、普通とは違う視線で彼を見ていると気づいていたようだった。
会ったばかりなのに、そんな些細な変化に気づいてくれるのは警察官だからなのか、風香の婚約者だからなのか。きっと後者だと、風香は思いたかった。
「………今は遠くにいる人なんです」
しばらく考えた後、風香はそう答えた。
彼には話せない事があるのだ。だから、少し濁した言い方になってしまったかもしれない。
けれど、彼との関係にはピッタリな言葉だと思った。
「風香さんの恋人?」
「それは………」
「答えたくないのなら大丈夫ですよ。風香さんが俺と会う事で辛い気持ちになるなら止めようかとも考えてました。だから、電話が来た時は嬉しかったんですよ。………俺は、風香さんにまた会いたかったから」
「柊さん………」
安心したようにホッと息を吐いた後、少し頬を赤く染めた柊がそう言って、真剣な表情からまた優しくそしてはにかんだ笑みを浮かべながらそう言った。
会いたくないはずがない。
昔の柊と重ねて見てしまうときもあった。それで切なくなる時間もあるだろう。
けれど、これから柊に会えなくなった方が辛く苦しいだろう。
「私は柊さんに会いたいです。もっと柊さんと話したいです」
「………俺もです。あなたに会いたいし、風香さんをもっと知りたいです」
熱を帯びた瞳と声。
それを見て、風香は彼との2回目の恋の始まりを感じた。