溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
案内された部屋は大きなソファが1つだけあるシンプルな個室だった。隠れ家のような雰囲気で、天井には薄い布が垂れており、明かりがぼんやりとしたものになっていた。
柊は柔らかそうなソファに座ると、「こっちにおいで」と風香を呼んだ。
新たに付き合い始めてから、車以外で2人きりの個室に居るのは始めてだ。しかも、かなりの近距離になってしまう。
ドキドキした気持ちを隠しながら、風香は彼の隣りに座った。
「さて。俺が風香ちゃんに聞きたいことはわかるよね?」
「…………はい。誕生日の事ですよね?」
「そう。付き合ったばかりだから、誕生日の話もしていなかったわけだけど。近いならば教えて欲しかった。君の誕生日をお祝いしたいんだよ?」
「………ごめんなさい。私も、誕生日の事話せなくて。最近いろいろあって、自分の誕生日なのにすっかり忘れてしまっていたの。………でも、知らない間に柊さんの誕生日が終わっていた………って考えると、私も悲しいから」
「うん。わかってくれればいいんだ」
そう言うと、柊は風香の頭を撫でてくれる。
やはり、彼は自分の誕生日を祝いたかったのだ。それが嬉しい。
お互いの誕生日はいつなのかを話しているうちに、注文したコーヒーが届いた。
「誕生日が近いから今回はサプライズはなしだけど……何かして欲しい事とかあるかな?」
お説教は終わりなのか、先程よりも随分ゆったりとしたいつもと同じ笑顔を見せてくれる柊を見て、風香はホッとした。
柊は風香の頭を撫でながら、そう問いかけるが、風香は考え込んでしまう。
柊が誕生日をお祝いしてくれるだけでも嬉しい。それなのに他に何を望めばいいのか。
しばらく考えた後、ハッとした。
彼にお願いしたい事が1つだけあった。