溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「風香さん!どうでしたか?」
「あ、和臣さん。さっきは電話ありがとうございました。」
「風香さんが無事で何よりです。それに、柊さんもすぐに見つかってよかったです。今、柊さんは管理人さんと話しをしてるので、俺が話しを聞かせて貰うことになりました。何か失くなってるものはありましたか?」
「たぶん、ないと思います。片付けていって、もしかしたら無いものがわかるかもしれないんですけど」
「そうですよね。今まで、こういう事をされたり、ストーカーっぽい行為はなかったですか?」
「………ないですね」
柊と付き合い、婚約もしていたのだ。
ストーカーなどは一切なかったし、誰かが部屋に侵入している事など全くなかった。
思い当たる事など検討もつかない。
「そうですか………あと、侵入が玄関のドアのようなんですが。風香さんは出掛ける時鍵をかけた記憶はありますか?」
「はい。ちょうど鍵をかけた後、急いでいて鍵を落としてしまったんです。なので、今日は必ず鍵を閉めていました」
「なるほど………。鍵穴に、むりやり工具などで開けた様子もなかったみたいんですよ」
「…………え………」
「そうなると、侵入してきた犯人は、この部屋の鍵を持っていた事になります」
「そんな…………」
「風香さん。この部屋の鍵は風香さん以外の人物で持っている人はいますか?」
その問いかけに風香は、鼓動が激しくなるのがわかった。
冷静にしなければ。いつものように返事をしないと。笑顔で、言葉を伝えなければ。和臣に不審に思われてしまう、と。
「誰も持っていません」
風香は嘘をついてしまった。
今も鍵を持っている人はいる。
そう、記憶がなくなる前の婚約者である柊だけが、風香の部屋の合鍵を持っていたのだ。