溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
☆☆☆
彼の事を信じていないわけではない。
柊が何故自分の部屋に侵入しなければいけないのか。
それに彼は絶対にしたいという理由を風香にはあった。
けれど、口から出た言葉は嘘になってしまった。風香は罪悪感を感じながらも、柊ではないと思い続けていた。それに、鍵を持っていても風香の事を忘れてしまっているはずなのだ。
それを和臣に伝えればよかったのかもしれないが、彼の職業を考えるとなかなか伝えられなかった。
「風香ちゃん?」
「あっ……はい!」
考え事をしていた風香の顔を心配そうに覗き込んだのは柊だった。大家との話しが終わって戻ってきたのだろう。
「ごめんなさい……ボーッとしちゃって」
「仕方がないよこんな事になったんだ。………今日は警察もここを調査するし、もう少したら風香ちゃんの話を聞いたらおしまいだけど。ここの部屋に戻れないね」
「………そうだね。怖いので、しばらくは違う所を探そうかな。とりあえず、ホテルに………」
「俺のところにおいで」
「え………」
「風香ちゃんがよかったら、俺のうちに来たら?………落ち着くまででもいいから」
柊の言葉に風香は目を大きくした。
彼は真剣な表情で風香にそう言った。
柊はしばらくの間、家に滞在する事を提案してくれたのだ。優しい柊ならば、そうするだろうが、記憶を無くした柊と付き合い始めてまだ間もない。それなのに、彼は風香を心配してくれているのだろう。