溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 今回の風香の部屋へ不法侵入では宝石は窃盗されていない。
 もし、盗まれているとしたら、その情報を知る人は限られているため、風香は知人を疑わなくてはならない。

 まずは、柊。柊とは、婚約をしていたため結婚式でドレスを着る際にカラードレスでは祖母から貰ったガーネットに合うドレスを着たいと話していた。そのため、柊はガーネットを貰った経緯と所在は知っていたのだ。だが、今、彼は記憶喪失になっているので、覚えてはいないはずだ。

 もう一人は美鈴。
 祖母が亡くなった時に風香はそのガーネットを身に付けて葬式に参加していた。宝石と共に祖母を失った悲しみを悼むためだ。祖母の葬式に、美鈴に来てくれたのだ。葬式にはそぐわない宝石をつけていたので美鈴はその理由を聞いきたため彼女に伝えた。
 祖母の葬式は親族や身内だけだったが、美鈴はよく祖母の見舞いにも来てくれており、祖母もお気に入りだったため、ぜひ来て欲しいと風香から頼んだのだ。
 だが、美鈴は宝石にはあまり興味がないようで、「ガーネットって、お花だと思ってたわ」と、衝撃の言葉を残したのを風香は覚えていた。


 そして最後の一人は風香の元彼氏。嶋崎輝(しまざき てる)だ。彼については、あまり思い出したくないので、風香は考えをそこで終わりにした。


 彼はこの街を守るために日々走り回っているのだろう。窓の外にはどこまでも続くビル等の街並み。その全てを守ることは出来なくても、守ろうとしてくれる。
 そして、風香の事も守ってくれている。
 そんな彼の家にただ自分の仕事をして過ごすのが申し訳なく思い、夕食ぐらいは作ろうと考えた。風香は、柊の冷蔵庫を開ける。すると、そこには水や缶ビール、パンやハム、チーズなどしか入っていなかった。野菜室はほぼ空で、冷凍庫には冷凍されたご飯や、冷凍食品が入っていて、風香は思わず苦笑してしまう。
 柊は元から料理があまり得意ではなく、ほとんどが外食だった。「おいしくて、片付けもしてくれてゴミも出ないから」という彼らしい言葉を思い出すと今でも笑ってしまう。
 これでは、彼に料理をする事も出来ない。柊には家から出るなと言われている。


 「今度、スーパーに寄ってもらおう」


 風香はそう呟いて、彼の好物を作ろうと献立を考えたのだった。






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